トラウマについて
トラウマとは、精神的に非常に大きな衝撃やストレスを引き起こす出来事や体験が原因で生じる心の傷を指します。トラウマは単に「嫌な出来事」や「辛い体験」といったものではなく、心理的に強い影響を与え、その後の行動や感情に大きな影響を与えるものです。
トラウマの種類と心理的意味について、簡単に解説します。
単回性トラウマ(一次的トラウマ)
これは、ひとつの大きな出来事によって引き起こされるトラウマです。通常、予測できないような突発的な出来事によって生じます。例えば、事故、自然災害、暴力を目撃する、恐怖を感じるような危機的な状況などが該当します。
心理的意味:
この種のトラウマは、強い衝撃や恐怖を伴うため、心が一時的にその出来事を「処理しきれない」と感じることがあります。場合によっては、その出来事が反復的にフラッシュバックとして思い出され、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に繋がることもあります。
複雑性トラウマ(複数のトラウマの蓄積)
複雑性トラウマは、ひとつの出来事ではなく、長期間にわたって繰り返されるネガティブな体験や、慢性的なストレスが原因で起こります。家庭内暴力、虐待、継続的なハラスメントや精神的な虐待などが典型的です。
心理的意味:
複雑性トラウマは、心の中で解決されない感情や思いが積み重なっていき、心理的な傷が深くなることがあります。このトラウマは、感情や自己評価に長期的な影響を与えることがあり、過度の不安、自己嫌悪、自己価値感の低さ、人間関係の困難などが見られます。
発達的トラウマ(発達過程でのトラウマ)
発達的トラウマは、特に子どもの頃に起こるトラウマです。親や保護者の愛情や支えが不足していたり、養育者からの虐待やネグレクトがあった場合、子どもは成長過程で心の傷を負うことになります。
心理的意味:
発達的トラウマは、子どもが心身の発達を遂げる上で必要な愛情や安定を欠いた状態で育つため、信頼関係の形成や自己愛の育成が困難になります。このトラウマは、成人後の人間関係や自己評価に強い影響を及ぼし、場合によっては精神的な疾患(うつ病、依存症、人格障害など)に繋がることがあります。
性的トラウマ
性的トラウマは、性的虐待や性暴力、性的なハラスメントによって引き起こされるトラウマです。このような経験は、非常に強い感情的な影響を与え、深刻な心理的傷を残すことがあります。
心理的意味:
性的トラウマは、自己の身体や性についての不安や恐怖を引き起こすことが多く、自己価値感の低下や、性的な親密さに対する回避傾向、対人関係における不信感を生じさせます。また、PTSDや解離性障害、抑うつ症状などの精神的問題が併発することもあります。
社会的トラウマ
社会的トラウマは、社会的な背景や環境によって引き起こされるものです。例えば、人種差別、性的指向や性別に基づく差別、貧困、戦争、移住、難民問題などが該当します。
心理的意味:
社会的トラウマは、社会的な疎外感や自己肯定感の喪失を引き起こすことがあります。また、差別や不平等が続く社会的環境において生きることで、精神的なストレスやトラウマが慢性化することがあります。これにより、過度の不安感や社会的回避、孤立感が強化されることがあります。
二次的トラウマ(共感的トラウマ)
二次的トラウマとは、他人のトラウマ体験を間接的に目撃したり、共感したりすることで、自分自身もトラウマ的な影響を受けることを指します。例えば、救急隊員、医療従事者、カウンセラー、またはトラウマを抱えた人の話を聞くことで、精神的な傷を負うことがあります。
心理的意味:
二次的トラウマは、他者の苦しみに共感するあまり、自分もその痛みを感じてしまう状態です。これが積み重なると、過度な疲労感やストレス、感情的な鈍麻(感情が麻痺する状態)などが生じることがあります。特に、支援職に従事する人々は、この影響を受けやすいです。
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トラウマの心理的な影響
トラウマが心に与える影響は個人によって異なりますが、一般的には以下のような影響が見られることがあります:
• 感情的な影響:過剰な不安、恐怖、悲しみ、怒り、抑うつなどの感情が引き起こされます。
• 行動的な影響:回避行動、過度な自己防衛、過食やアルコール・薬物の乱用、孤立など。
• 身体的な影響:不眠や食欲不振、体調不良、過度の緊張や疲労感などが現れることがあります。
• 認知的な影響:出来事を繰り返し思い出し、記憶や思考が混乱する、現実感を失う、過去の出来事が現在にも影響を与えるなど。
トラウマと向き合う方法
トラウマは、時間と適切な支援をもって解決に向かうことが可能です。以下の方法が有効とされています:
• 認知行動療法(CBT):特にトラウマ治療に特化したEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)や認知行動療法(CBT)が効果的です。
• 社会的サポート:理解してくれる友人や家族、支援グループなどのサポートが大切なので、グループカウンセリングの場で吐露することもあって良いでしょう。
• 自分のペースでの回復:トラウマに対する反応は人それぞれです。無理に回復を急がず、ゆっくりと自分に合った方法で心のケアを進めることが重要です。
• 心理療法:トラウマを抱えるその人に個人的な心理的不安や葛藤が強い場合は、CBTの方法やグループカウンセリングだけではトラウマ対処が無理な場合があります。そういった人には、心の使い方や対人関係も含めて扱う心理療法(主に継続的な)が必要となって来るでしょう。
トラウマは心に深い傷を残しますが、その理解と適切な治療によって回復は可能です。